<た行>
◆かく世の中のことをも、思し棄てたるやうになりゆくは、いとたいだいしきわざなり・・・(源氏物語) このように世の中のことを思い棄てられたようになっていくのは、とても困ったことだ・・・ ◆説教などして世渡るたづきともせよ。(徒然草) 説教などをして世渡りの手段とせよ。 ◆都へたより求めて文やる、(徒然草) 都へつてを求めて手紙を送る。 ◆さるは、たよりごとに物も絶えず得させたり。(土佐日記) そうはいっても、ついでがあるごとにお礼も欠かさずあげた。 ◆いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。(枕草子) たいへん寒い朝に、炭火などを急いでおこして、炭を持ち運ぶのも(冬の朝に)とてもふさわしい。 ◆女、身のありさまを思ふに、いとつきなくまばゆき心地して、めでたき御もてなしも何ともおぼえず、(源氏物語) 女は、自分の立場を考えると、とても不相応で恥ずかしい気がして、すばらしい対応にも何も感じず、 ◆人のためにはづかしきこと、つつみもなく、ちごも大人も言ひたる。(枕草子) 人にとって恥ずかしいことを、遠慮もなく、子どもも大人も言っている。 ◆もしつれづれなる時はこれを友として遊行す。(方丈記) もし退屈な時はこれを友として遊びまわる。 ◆雪山は、つれなくて年も返りぬ。(枕草子) 雪山は、変わらずに年も改まった。 ◆いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがな。(竹取物語) 何とかして、このかぐや姫を妻にしたいものだ、世話をしたいものだ。 ◆いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれてときめきたまふありけり。(源氏物語) それほど高貴ではないが、格別に寵愛を受けて栄えておられる方があった。 ◆船疾く漕げ。日のときに。(土佐日記) 船を速く漕げ。天気がよいから。 ◆さはなんぞと仰せらるれば、家なれば住み候ふに、おはしますがかたじけなく、所せく候ふなり。(宇治拾遺物語) 「それでは何か」とおっしゃると、「(自分の)家なので住んでおりますが、(あなたが)いらっしゃるのが恐れ多く、気詰まりでございます」 ◆所なく並みゐつる人も、いづかたへか行きつらん、(徒然草) すき間なくぎっしり並んだ人も、どこへ行ってしまったのだろうか、 ◆珍しがりて、とみにて立つべくもあらぬほど、(更級日記) 珍しがって、急には立ち去りそうもないとき、 |
<な行>
◆内裏は山の中なれば、かの木の丸殿もかくやと、なかなか様かはりて、いうなるかたもはべり。(方丈記) 内裏は山の中なので、あの丸木の宮もこんなふうかと、かえって趣が変わって、風情がある面もあった。 ◆暮れがたき夏の日ぐらしながむれば(伊勢物語) 日がなかなか暮れない夏の日に一日中、物思いにふけっていると ◆鹿の縁のもとまで来てうち鳴いたる、近うてはなつかしからぬものの声なり。(更級日記) 鹿が縁の近くまで来て鳴いている、近くで聞くと親しみがもてない声だ。 ◆なでふ、百日の鯉を切らむぞとのたまひたりし、(徒然草) どうして、百日の鯉を切ろうなどとおっしゃったのだろう、 ◆心はなどか、賢きより賢きにも移さば移らざらむ。(徒然草) 心はどうして、賢いうえにも賢く向上させようと努力してできないことがあろうか、いやそんなことはない。 ◆なのめにだにあらず、そこらの人のほめ感じて、(枕草子) 平凡でもなく、多くの人がほめ、感じ入って、 ◆なべての手して書かせむが悪く侍れば、われに書かせたてまつらむ。(大鏡) 平凡な筆跡で書かせるようなことはよくないことでございますから、あなたに書かせ申し上げよう。 ◆和歌こそなほをかしきものなれ。(徒然草) 和歌というものは何といってもやはり趣のあるものだ。 ◆その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。(伊勢物語) その里に、たいそう優美な姉妹が住んでいた。 ◆「惟光、とく参らなむ。」と思す。(源氏物語) 「惟光、早く参上してほしい。」とお思いになる。 ◆いとなめしと思ひけれど、心ざしはいやまさりけり。(伊勢物語) とても無作法だと思ったが、思いはいっそうつのった。 ◆安からぬことに世の人なやみ申して、(栄花物語) 穏やかではないと世の人はとやかく非難し申し上げて、 ◆女、風邪にや、おどろおどろしうはあらねどなやめば、(和泉式部日記) 女は、風邪をひいたのだろうか、それほどひどくはないが病気になったので、 ◆内わたり朝夕にならひて、いとさうざうしく上の御有様など思ひ出で聞ゆれば(源氏物語) これまで華やかな宮中生活にいつも慣れているので、物足りなくさびしく、天皇の御様子などを思い出し申し上げるので ◆いかで、心として死にもしにしがな。(蜻蛉日記) 何とかして、心のままに死んでしまいたいものだ。 ◆容貌などねびたれどきよげにて、(源氏物語) 容貌などは老けているが、こぎれいで、 ◆年ごろ、よくくらべつる人々なむ、別れがたく思ひて、日しきりに、とかくしつつののしるうちに、夜ふけぬ。(土佐日記) 数年間、親しく付き合ってきた人々は、別れをつらく思い、その日は一日中、あれこれ(世話を)しては大騒ぎするうちに、夜がふけてしまった。 ◆御心をのみまどはして、去りなむことの悲しく堪へがたく侍るなり。(竹取物語) 御心をひどく惑わして、去っていくことが悲しく堪え切れないのでございます。 |
<は行>
◆はしたなきもの こと人を呼ぶに、われぞとてさし出でたる。(枕草子) 間が悪いもの。他の人を呼んだのに、自分かと思ってでしゃばった(時)。 ◆帰らむにもはしたなく、心幼く出で立ちにけるを思ふに、(源氏物語) 帰ろうにも中途半端で、無分別にも出てきてしまったことを思ううちに、 ◆鏡もなければ、顔のなりたらむやうも知らでありけるに、にはかに見れば、いと恐ろしげなりけるをいとはづかしと思ひけり。(大和物語) 鏡もないので、顔が変わっているようすも気づかないで知らないでいたが、不意に(自分の顔を)見ると、とても恐ろしそうだったので、たいそう気が引ける思いがした。 ◆今井の行くへを聞かばや。(平家物語) 今井の行方を聞きたい。 ◆道理とひがごとをならべむに、いかでか道理につかざるべき。(平家物語) 道理と非道を並べたら、どうして道理につかないことがあろうか。 ◆ひたぶるに仏を念じたてまつりて、(更級日記) ひたすら仏様をお祈り申し上げて、 ◆殿はならせたまはずとも、人わろく思ひ申すべきにあらず。(大鏡) 殿はおなりにならなくても、みっともないとお思いになるはずがない。 ◆しかれども、ひねもすに波風立たず。(土佐日記) しかし、一日中波風が立たない。 ◆かたち・心ざまよき人も才なくなりぬれば品下り、顔憎さげなる人にも立ちまじりて、かけず気圧さるるこそ本意(ほい)なきわざなれ。(徒然草) 容姿や気立てがよい人も学才がないとなると品格が下がり、顔のにくにくしげな人ともいっしょになって、他愛もなく圧倒されるのは残念なことだ。 ◆それより下つかたは、ほどにつけつつ、時にあひ、したり顔なるも、(徒然草) それより下級の人は、身分に応じては、時流に乗り、得意顔であるのも、 |
<ま行>
◆汝、供養せむと思はば、正に財宝をまうくべし。(今昔物語) お前が、供養しようと思うならば、まちがいなく財宝の準備をしなければならない。 ◆あれは大将軍とこそ見まいらせ候へ。まさなうも敵にうしろを見せさせたまふものかな。(平家物語) そちらは大将軍とお見受けいたす。卑怯にも敵に後ろをお見せになるのか。 ◆屋の上にをる人どもの聞くに、いとまさなし。(竹取物語) 屋根の上にいる人たちが聞くと、とても不都合だ。 ◆しやせまし、せずやあらましと思ふことは、大様はせぬは良きなり。(徒然草) してみようかしら、しないでおこうかしらと思うことは、大体はしないほうがよい。 ◆鏡に色形あらましかば映らざらまし。(徒然草) 鏡に固有の色や形があったとしたら、何も映らないであろうに。 ◆世の人の飢ゑず、寒からぬやうに、世をば行はまほしきなり。(徒然草) 世の中の人が飢えることなく、寒くないように世の政治をしていきたいものだ。 ◆この男まもれば、我が妻に似たり。(大和物語) この男がじっと見ると、自分の妻に似ている。 ◆にくきもの、急ぐ事あるをりに、長言するまらうど。(枕草子) 憎らしいもの、急ぐことがある時に、長話をする客。 ◆物の怪のさまと見えたり。あさましくむくつけしと。(源氏物語) 物の怪のように見えた。とんでもないことことで気味が悪いと。 ◆九夏三伏のあつき日は、泉をむすびて心をなぐさめ(平家物語) 九夏三伏といわれる暑い日は、泉の水を手ですくって心を慰め ◆むべこそ親の世になくは思ふらめと、をかしく見たまふ。(源氏物語) なるほど親がこの上なく思っているだろうと、興味深くご覧になる。 ◆はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。(源氏物語) はじめから我こそはと思い上がった方々は、気にくわないとして見下しねたみなさる。 ◆梢も庭もめづらしく青み渡りたる卯月ばかりの曙、(徒然草) 梢も庭もすばらしく青々としている四月ごろの明け方、 ◆桜のめでたく咲きたりけるに、(宇治拾遺物語) 桜がみごとに咲いていたのに、 ◆音に聞き、めでて惑ふ。(竹取物語) うわさに聞いて、心ひかれてまた心を乱す。 ◆命長ければ辱多し。長くとも、四十に足らぬほどにて死なむこそ、めやすかるべけれ。(徒然草) 長生きをすれば恥も多い。長くても四十足らずで死ぬのが、見苦しくないにちがいない。 ◆あはれにいひ語らひて泣くめれど、涙落つとも見えず。(大鏡) しみじみと語り合って泣いているように見えるけれど、涙が落ちるとも見えない。 ◆いかで、京へもがな。(土佐日記) 何とかして、早く京へ帰りたいものだ。 ◆世の人あひあふ時、しばらくももだすることなし。(徒然草) 世間の人は互いに会うと、少しの間もだまっていることがない。 ◆大宮ものうき御いでたちなれば、とみにもたてまつらず。(平家物語) 大宮は気が進まないご出発なものだから、すぐにも車にお乗りにならない。 ◆こはなぞ、あなもの狂ほしの物怖ぢや。(源氏物語) これはどうしたことか、なんと異常な恐がり方ではないか。 ◆いとすさまじう、ものしと聞こしめす。(源氏物語) とても興ざめで、不快だとお聞きになる。 ◆一昨年の春ぞものしたまへりし。(源氏物語) 一昨年の春にお生まれになった。 ◆この人につきて、いと忍びてものし給へ。(平中物語) この人について、そっと一目につかぬように来てください。 |
<や~行>
◆御車をやをら引き入れさせて、(源氏物語) お車をそっと引き入れさせて、 ◆やがてかけこもらましかば、口惜しからまし。(徒然草) すぐに中に入ってかけがねをかけたなら、どんなにか残念だったろう。 ◆世の中をうしとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(万葉集) この世をつらく耐え難いと思うけれど、どこかへ飛び去るわけにもいかない、鳥ではないので。 ◆名を付くる事、昔の人は、少しも求めず、ただありのままに、やすく付けけるなり。(徒然草) 名前をつけることを、昔の人は、少しもこだわりなく、ただありのままに、気軽につけたものだ。 ◆よろづに、その道を知れる者は、やむごとなきものなり。(徒然草) 何ごとにつけても、その道に通じている人は、貴重な(尊い)ものだ。 ◆胸のやるかたなきを、(源氏物語) 気を晴らす方法もないので、 ◆谷の底に鳥の居るやうに、やをら落ちにければ、(宇治拾遺物語) 谷底に鳥が降り立つように、ゆっくり落ちたので、 ◆山路来て何やらゆかし菫草(すみれぐさ) 山道を来て、ふと何となく心ひかれる菫草であることよ。 ◆かく言ひて眺めつつ来る間に、ゆくりなく風吹きて、(土佐日記) こう言って物思いにふけりながら来るうちに、不意に風が吹いて、 ◆人はよし思ひ止むともたまかづら影に見えつつ忘らえぬかも(万葉集) ほかの人はたとえ思わなくなっても私は(帝が)面影に見えて忘れることができないなあ。 ◆おろかなる人は、ようなき歩きは、よしなかりけりとて、来ずなりにけり。(竹取物語) たいした情熱のない人は、むだな歩きは、無意味だといって、来なくなってしまった。 ◆花・鳥の色にも音にもよそふべき方ぞなき。(源氏物語) 花の色や鳥の声にもたとえようがない。 ◆よろしくよみたりとおもふ歌を人のもとにやりたるに、返しせぬ。(枕草子) まあよく詠んだと思う和歌を人の所へ送ってやったところ、返歌をしない。 ◆らうたしとおもひながらとどめず。(大和物語) いとしいと思いながら留めることができない。 ◆物に書きつけておはするさま、らうらうじきものから、若うをかしきを、めでたしと思す。(源氏物語) 何かに書きつけておられるご様子が、気高く美しく、若くて風情があるのを、すばらしいとお思いになる。 ◆わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩たれつつわぶと答へよ(古今和歌集) ひょっとして私をたずねてくれる人がいたら、須磨の浦で嘆きに沈んでは寂しく暮らしていると答えてください。 ◆若く末々なるは、宮仕へに立ち居、人の後にさぶらふは、様あしくも及びかからず、わりなく見むとする人もなし。(徒然草) 若くて身分の低い人は、ご主人の用事のために立ったり座ったりで、人の後ろにつき従っている者には、見苦しく後ろからのしかかったりもせず、(祭りを)無理に見ようとする人もいない。 ◆かたはらにて聞く人は、謀るなりとをこに思ひて笑ひけるを、(宇治拾遺物語) そばで聞いている人は、ごまかすのだなと愚かに思って笑ったのに、 ◆宮仕へもをさをさしくだにしなしたまへらば、などかあしからむと、(源氏物語) 宮仕えもしっかりなさるようにさえすれば、どうして悪いことがあろうかと、 |
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